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193

未来の私は「あなた」であり、過去の私も「あなた」である。
「あなた」ではない現在の「私」は、私の中の何%ほどを占めているものなのか。
「私」は実体なのか。

*

私の盲目と無理解があなたを怒らせる。
私はあなたに憎ませたりはしないだろうが、ただ、あなたを怒らせてしまう。
私はどうしようもなくて悲しい。私はやがて仕方がないと感ずる。

*

「私」は私を支えない。あなたは私を支えない。
「私」はあなたである。「あなた」は私である。
病だろうか。
あなたが「私」の前から見えなくなり、「私」が私の中から見えなくなってしまうのは。


あなた は 誰?

192

ある日。
神さまはいないのだと思いました。
経験を受けいれ写実に徹することができないからです。
それができる人は神の創造の確かさすなわち〈あるがまま〉に身をゆだねるところからつねに出発します。
私は自分の創作の跡を確かめることしかできません。

人の創造性など限りあるものですって?
そのとおり。私の創作は私の能力によるものではありません。先人たちの成果のコラージュ。
そうです。私が与えられるのは先人からであって神からではありません。
創作者は神について考え、神に会わない。

会いたいなら、会おうとしてはいけない。神さまはいません。

191

歌は文学かという、ふるい命題について。
たしかに歌はいつも音楽から文学へ向かっていただろう。
文学になることではなく、文学へ向かうことが、歌の望みだったのではないだろうか。
立ちあがり伸びあがり。

運動。

すくなくとも。
歌は運動に恋をする。

190

力をこめて推量し、息をひそめて断定する。

189

私はなんというむごい靴を履いてしまったのでしょう。
脱ぐことはできるのです。私はモイラ・シアラーではありません。
なのに脱ぎたくないとは。どうしたことでしょう。
いつか光が届かなくなってもなお履いているつもりなのでしょうか。私は。

188

こどものころから考えていたのは、相手のことがだいじであればあるほど、だいじなことを告げにくいだろうということ。
たとえば。
不治の病を告げられるのはかまわないが、告げるのはたいへんむずかしいだろうということ。
だいじな相手ほど他人だから。
他人を前に、もはや最後の相談相手をうしない、このうえなく孤独な自分を知るから。
「ふたりでいても、ひとりとひとり」と言えるうちは、ふたりでいるのだから孤独ではない。
さようなら。
死ぬのはつらい。
ひとりで考えるのはとてもつらい。

187

帰りたい
なんて言いたくない
帰る場所なんかない
なんて当たりまえすぎて言いたくない

帰るなら
行ったことのない土地へ
帰れ
(白いエルフとともにホビットは帰った)

郷にはさらに郷がある
死にはさらに死がある
(白いヨナタンとともにカールは行った)

まったき終焉は
きっと
ない

186

地震のない都に住みたい。
崩壊と再建の繰り返しという夢を禁じられた都に住みたい。
やりなおしのきかない世界。
やりなおしがきかないために、繰り返しならぬ、蓄積によってきずかれる世界。
憎悪、策略、謀殺、あらゆる酸鼻の極み。
それらの蓄積の底から差す一条の知恵。
清算ではなく、知恵を求めることにより、永い過ちの果てに永く栄える都に住みたい。

185

すぐにわかる人は、感傷的にならざるをえない。

すぐにわかる人(わかった、と思う人)にとって、すべてはすみやかに過ぎる思い出だから。

わかることの不幸。
わからない人の愚昧のために未来はある。

わたしは未来を待つ。

184

1)何が 2)どのように
書かれているかに、人は興味をもつ。
批評的思考が1に振れるとマニフェスト、2に振れるとポエティクスに近づく
と、して。
その両者を満たそうとする試みは、あったか。
試みは、果たされたか。

ゆっくり、しかし決して止まらないように、話しつづけなくてはならない。
断片とは未解決事項である。
加齢とともに、未解決事項が、いっそう降りつもる。
なおのこと、ゆっくり。

183

おなじことを言いつづけること
おなじ人に継続的に愛されようなんて虫のいいことを考えてはいけない
わたしを愛する存在はある 永遠はない
入れかわり立ちかわり果実をついばみにおとずれる鳥たちのように
人びとがおりおり触れてくれますように
一期一会のみなさん
時になつかしく果実の味を思いだしてください
あなたがたの人生の切片を
わたしはもくもくと実らせつづけます

一生おなじ歌を 歌い続けるのは/だいじなことです むずかしいことです/あの季節がやってくるたびに/おなじ歌しかうたわない 鳥のように
(「ソナチネの木」岸田衿子)

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