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怒りは散文の道を通ってやってくる、ならば、そのまま散文の道をゆかせなさい。散文で訴えなさい。私は怒りを歌うな。
歌は、その丈が短いとしても、感情や洞察の長きにわたる堆積のはての、さいごの溜息だから。
だから。歌からよびおこされる想念を散文によって追うとき、それは歌の過去世をさぐる、さかのぼる旅だと思う。
耐えて耐えたのち。歌となるとき、ようやく、未来がはじまる。
ぼくにとって短歌とは、文学のあらゆる形式が語り終った時、表現を完了したとき、まさにその時から歌い始めるものです。
(「見えないもの」塚本邦雄)