小説 『神野悪五郎只今退散仕る(しんのあくごろうただいまたいさんつこうまつる)』 刊行のお知らせ
現在広島県の三次(みよし)というところに『稲生物怪録』というお化けの話が伝わってまして、それをもとに巌谷小波、泉鏡花、稲垣足穂といった作家たちがそれぞれの物語を残したことはここをごらんになる方はよくご存知のことと思います。
このいわば「稲生物怪テクスト」を一挙に集めて一冊にしよう、という企画が進められ、2003年、毎日新聞社刊・東雅夫編『稲生モノノケ大全 陰之巻』として完成しました。
これは700ページを超え定価5000円という大部の本であったのにもかかわらず増刷されました。
「陰之巻」とされたのは、その後に「陽之巻」が予定されていたからで、過去にさまざまな作家たちが「稲生物怪」物語を書いたのであれば、その後に現代作家にも書かせてみようという発案によったものです。
さて、陰之巻が成功したため、東雅夫編『稲生モノノケ大全 陽之巻』が2005年、同版元から刊行されることとなり、そのさい、私も秋里光彦の名で「クリスタリジーレナー」という短編を寄稿しました。
刊行の後、東雅夫さんからbk1の購買者特典として著者アンケートの依頼があり、このとき「作者の言葉」を送りました。
そこに次のようなことを記した記憶があります。
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とはいえ、今回はいくらか、状況に合わせたところもあって、著名作家とは言い難い私が、多少とも目立ちたければ、他の作家の方々が決して書かないだろう展開を見せるのが適当だろう、そう思い、最初に考えた、完全にオーソドックスで懐かしい「ひと夏のお化け屋敷物語」の案を敢えて退け、このやや淋しい物語の方を提出することにしたのである。
ゆえに、いつかもう一度、今度はあまり比較や「誰かとかぶってしまうこと」を意識せずに、一冊の独立した自著として「ひと夏のお化け屋敷物語」を存分に書きたいと考えています。
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以来2年、あのとき果たせなかった「ひと夏のお化け屋敷物語」をようやく書き終え、そして今年、これも毎日新聞社から単著としての刊行が決定しました。夏までに出る予定です。
題名は『神野悪五郎只今退散仕る(しんのあくごろうただいまたいさんつこうまつる)』とし、高原英理名義で刊行されます。
稲垣足穂の『山ン本五郎左衛門只今退散仕る』をはっきり意識したこの題でわかりますように山ン本五郎左衛門の対となる大妖怪として『稲生物怪録』に名の出ている神野悪五郎がこちらは二人の姉妹にお化けをしかけてくる、しかしそれは山ン本のときとは異なって、実はただの肝試しではなく、別の大きな目的があった、という内容の、現代を舞台にした夏のお化け物語となっております。
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