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じっとして

 どこだったのだろうか、路地の続く薄暗い中、板塀の前に何やらの樹の立つ場所が少しだけ空いていて、枝の下、どうにか身を休めるに足る大きさの石が置いてある。困憊窮まった新一郎が促されたように腰をおろすと縦横にさしわたす枝間から半月が見えた。そろそろ星が目を開き始めた。この夜をいったい俺はどう過ごすのかといった、そんな考え事も兆す前に、ただ無心に呆然と空を見上げた。今の不思議な心地、これが言葉にでもなるなら詩はできあがるのだが、と、それでも一瞬の後には未練が来た。諦められるものか。
 ふと眼の端に、しゅるりと白い丸い、動くものが見え、おや、猫でもいるかと思って顔を向けると、その途端、
「こばんは」
 と変な物言いがいきなり頭の後ろ、向けた顔の反対側から聞こえ、すぐさま振り返ると、洋装の綺麗な娘が腰をかがめて覗き込んでいる。

「猫書店」より

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