蜷川実花監督映画「ヘルタースケルター」最終日にようやく見ることができた。
よいと思います。
オリジナルの場面もあるがほぼ原作に忠実で、かつ、その問題系を共有していることがわかる作りに賛成できた。賛成できたところでできのよしあしには関係ないが、かなりよく生かして成功していると思う。
用いられる俳優の美の序列が的確に組まれていてキャスティングが正確で酷薄である。
その酷薄さが日常とは別のリアリティを産む。後半はかなり楳図かずおスピリットな気もした。ホラーというのではなくて「イアラ」的・心理的な意味で。
やっぱり、りりこは綺麗になったタマミちゃんだった。
麻田検事の、今ではちょっと「ぷっ」な台詞(完全に同じでないかも知れないが原作踏襲)に秘書が「ポエムですか?」とつっこむところに現在を感じた(てかこのつっこみ原作にないよね確か)。
しかし、世界そのものはやはり90年代的な感じか。
りりこの妹のその後がほんのワンシーンでとても原作をよく再現していた。りりこのような攻撃的なところはないだろうけど、この先、過剰に愛され捨てられるのだろうと思わせるところ。
沢尻エリカのりりこは原作の絵とは違うがこれはこれで悪くない。
それに対し、吉川こずえ役の水原希子はもともと岡崎京子の描く美少女にとてもよく似ている。口の大きいところとか。
原作にあるりりこやこずえの内的独白もそのままでなく、うまく処理されていた。
もともとの整形方法が荒唐無稽で、その無理さや効率の悪さリスクの大きさからそれが実際にあったとしても誰もそこまではやらない気がするのだが、整形後も常時薬を使わないとならない理由を(確かこれは原作にはない)ある程度納得のゆく形で明かしていたのも面白い。
正直前半はちょっと退屈というか面倒というか、あああ、この先、あれもこれもやってこれも通過して、このくだりも消化して、と思うとなんか重苦しい。原作を知っている者の場合だが。
それはいくつかのりりこのシーンが冗長だったりするからでもある。監督はきっと沢尻のイイ顔(わざと汚れて醜いときとか)を撮っていると捨てがたくなったのだろう。その点では若干編集に難あり。
が、中盤からは、峠を越えた感じでよくなる。沢尻号泣シーンにも慣れる。で、やっぱり麻田検事の台詞だけが浮いている。原作のモデルの問題かなー?とちょいイジワルかましてみる。
それと、りりこが婚約したつもりなのに裏切った男が実際に結婚した社長令嬢も実は例の整形をしていて、事件発覚・医院閉鎖後、胸が崩れてきて、あなたの望みにあわせたのに、とか言うシーンがカットされていたのがちょっと残念。いやこれは特に復讐や因果応報的な意味合いではなく、それほど立場のよい女でさえ、りりこと同じ欲望を共有していたのだと示す意味として。
ともかく美醜の差の意識がどれだけ自意識と他者との関係を過剰に無残に作り上げるか、楳図かずお以来、臓腑を抉るように感じさせてくれる。普段平和に、なるべく考えないようにしているところばかりを強調される。
原作とはやや違うがりりこ単独会見の顛末はクールでよい。ラストはそのままでこれもよい。
というわけで、全体としてはとてもよい映画だと思うのであった。
映画については以上ですが、原作については以下の本に書きました。
高原英理『ゴシックハート』(講談社刊) → ■ / なおアマゾンはこちら
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