もうだいぶん前のことになるので「日々のきのこ」が「文學界」に掲載されたときの記録を再録してみる。以下(☆~★)。
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本日発売の「文學界」2月号に掲載されている「日々のきのこ」の第一章は「序曲」という題名で約30年前に書かれた。
その後、十数年ほど前にやや視点を変えた第二章を「罠」という題で書き足してみて、まずまずだなと思ったのでこの二章を連続した散文詩のようなものとした。
2000年、佐藤弓生の属する短歌同人誌「かばん」主催の記念朗読会が吉祥寺の井の頭公園で開催され、当時購読会員だった私も、野外ステージでこれを朗読した。
少しだけ音楽を加えることができるというので、ジョン・ケージの「プリペアドピアノのためのソナタとインターリュード」の中から、比較的静かで瞑想的な部分を背後に響かせながら読んだ。
当時私の知るクラシックおよび現代音楽の中で、最も自作に合うと感じたのがこの曲だった。
このときは意識していなかったが、ジョン・ケージはとてもきのこを愛する作曲家で、1962年に創設されたニューヨーク菌類学会の最初の会員の一人、また後にカリフォルニア大学に寄贈されることになる大量の菌類学文献を所蔵する人でもあったばかりか、1958年、滞在先のイタリアでは「Lascia o Raddoppia」(いちかばちか、の意とのこと)というTVのクイズ番組に数週間連続出演し、菌類学全般にわたる知識に関するクイズに勝ち抜いた結果、五百万リラの賞金を獲得したという(以上、飯沢耕太郎氏による『きのこ文学大全』のご教示による)。
しかし長らくこの二章分から先は進まなかった。
一昨年、ふと、前二章とはさらに異なる視点で、ただし飽くまでもきのこをモティーフにした散文を書き足してみた。
そこからはあれこれと足してみたい場面が見えてきたので、そこまでのリズムをなるべく崩さないように、書けるときに少しずつ書き進めた。
すると徐々に、全体のテーマらしいものも現れた。
昨年になると一層書く速度が上がり、一時期、集中的にかかりきって、ようやく全70枚ほどの短編小説として完成した。
そのようなことができたのは2008年末、上野の国立科学博物館で開催された「菌類のふしぎ」展に行ったからだと思う。楽しく、驚異に満ちていた。多くを考えさせられる展示だった。
菌類のふしぎ展の経験の何か月か後になって、こんな小説ができてきたのは、長らく地下にあった菌が、あるとき栄養を得て繁殖し育って、突然むくむくと子実体を作り出す、そのままの様子に思える。
なにぶん、きのこなので、今回の小説には読者に共感を求めるような要素はない。驚異と思弁と、そして少しだけユーモアも感じ取っていただけたらよいのだが、と思っている。
なお、「文學界」は先月号から、飯沢耕太郎さんの「きのこ文学の方へ」の連載が始まっていて、これがまた楽しいので、この2月号に限れば二大きのこ文学掲載という快挙達成になっています。
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以上2010年1月7日の記事から。
本当に当時の「文學界」はなんてきのこだったのでしょう。
というあのころの幸運な感じをここにもう一度。
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