ミステリのその気・SFの突っ込み
自分はSFよりはミステリの方から入ったが、現実内で成立するトリックというには遠い物語ばかり読んだと思う。1970年代は社会派推理小説よりも古い探偵小説が続々と復活した時期で、かつまた日本SFが全盛を迎えた時期と記憶する。
変格ミステリの非現実とSFの非現実とは全然質が異なって見えた。どちらも想像の行き着く先であるはずなのだが、ミステリには物質的限定内という条件とともに常に猟奇と秘密が重要であったところが大きいか。
そこへ全くあからさまに暗い話も翳りなく語ることの多いホラ話の延長のようなSFが文化的衝撃ではあった。それは悲劇に慣れていた者が初めてコメディを知ったようなものかとも思う。
そういえば舞台のほうは見ていないが、三谷幸喜原作脚本・星譲監督の映画「笑の大学」は名作だった。「この非常時に」とコメディなど一切認めなかったはずなのにいつの間にか笑いに魅惑され取り込まれてゆく検閲官役の役所広司の「笑いながら怒る人」ぶりが最高である。
70年代日本SFは、たとえば荒唐無稽な猟奇の世界に「あれ、これって他人から見るとバカ?……」という突っ込みを入れながら読む態度を教えた部分があるのではないか。
その後も自分は変格ミステリを「その気になって読む」喜びを捨てているわけではないが。
| 固定リンク
最近のコメント