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文人

以前、創元ライブラリ版『中井英夫全集』に「文人と幻想文学者の間」という評論を書いた。ここに「文人」の意味を示しているが、それは本文を読んでいただくとして、文人に最も似合う文学ジャンルというのがすなわち随筆である。
澁澤龍彦には随筆とエッセイとをやや異なるものとしている文があるがここでは特に区別しない。
中井英夫も随筆はうまかった。というか、もともと文章ならなんでも読ませる人だった。
そういう人が、無理やりに「洒落たオチ」や「物語のうまさ」にこだわってストーリーを書きあぐねていたのであれば、もっともっと、自由な随筆を多く残してくれればよかったと思う。特に晩年。
何よりも「作家」でありたければ小説を書き続けねばならないという強迫観念に近いものを持っていた人なのが残念である。
とはいえ、今も、「作家」でありたければ、代表的な小説をひとつならず、いくつも発表していることがその条件と考えられがちで、随筆だけだと「小説はまだですか」と言われたりもする(らしい。私にはそういう経験はないから)。
その考え方に必ずしも賛成するつもりはないが、ただ、どういう経緯であれ、記名の文章を世に問おうとする意志のある人なら「作家」とされていることは重要だ。そうでないと、書き手としての自主性が認められにくいからだ。
ということで澁澤道(つづく)

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