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『不機嫌な姫とブルックナー団』、講談社から8/26刊行のお知らせ

高原英理 『不機嫌な姫とブルックナー団』、講談社から8/26刊(1566円税込)。

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帯文を小川洋子さんと穂村弘さんからいただきました。御礼。
イラストはMinoruさん、装丁は高柳雅人さんが手がけてくださいました。御礼。
アマゾン→■■

「ブルックナー団」というのは交響曲作曲家ブルックナーのファンのサークルです。たまたま、大変稀ではあるけれど女性でありかつブルックナーの音楽を愛するヒロインが彼らに遭遇したところから始まる物語。

ヨーゼフ・アントン・ブルックナー(一般にはアントン・ブルックナーと呼ばれる)は19世紀末のヴィーンで11曲(内番号なしの習作と「ゼロ番」を含む・番号付きは第9番まで)の巨大な交響曲を作り続け、しかし最晩年の数年以前は全く認められず、今では「巨匠」とされるけれども、その生涯の大半がとても不遇だった作曲家です。

ブルックナーは今でいうコミュニケーション障害で、他者との上手な付き合いができず、いつも小心で融通が利かず、「偉い人」にはひどく卑屈にへつらい、洒落や粋がわからず、シャープなアーティストたちからいつも馬鹿にされ、その無様な言動に「あーあ」と言われ続けた、かつまた、元祖非モテと言える人でした。

実際に記録されているブルックナーの生涯は、セクハラ事件(ほぼ冤罪)や、交響曲第三番公演の大失敗など、情けなく惨めな出来事に満ちています。この残念な人を見よ。

当時のヴィーンでは、ブラームスが通の間で絶対的に尊敬され、またバイエルン(ルドウィヒ二世の統治下)ではヴァーグナーが自分の音楽とその劇場のために国費を費やさせ、また、リストは今のジャニーズ級のアイドルのように超人気、と、華やかな天才が多くいました。それに対してブルックナーときたら。

私はたとえばモーツァルトもラヴェルも好きだしブラームスやフォレの室内楽も好きですが、しかしブルックナーとなると何か特別な気がします。

それは、こんな非オシャレ音楽をどうして好きになるのか、なんだかなあという気持ちと裏腹なものですが、しかし、やはりブルックナーの音楽の与える陶酔には勝てない。

お洒落やビューティフルライフ、センスのよさ、といったものもわかってはいるつもりでも、なぜかダサダサのブルックナーに行ってしまう、そのアンビヴァレントなところを、私などより一層、アンビヴァレントさが際立つ、30代の、そんなに容姿も悪いわけではない女性に託して描いてみました。

現在ブルックナーを愛する人にはなぜか圧倒的に男性が多く、ブルックナーの曲がメインであるコンサートの休憩時間には、男子トイレにものすごく長い列ができるのが普通です(バレエの公演の場合に女子トイレに長蛇の列が続くのとちょうど対照的)。それほど男性に好まれやすい作曲家です。
同じ後期ロマン派でもマーラーやヴァーグナーはそうでもないのにね。

そしてまた、ブルックナーの交響曲の優れた演奏が終わった後には多く、野太い大歓声の中、大抵ずんぐりした男性たちがあちこちに立ち上がり、「うおおうおお」と喝采する様態が見られ、これを「ブルオタ祭り」と呼びます。

それでも足りず、オーケストラ団員がステージを去った後にも喝采は続き、するとそれに呼応して指揮者(ブルックナーのエキスパート・大抵は相当の年配)が一人で出てきて、並み居るブルックナーファンたちに手をふります。これを「一般参賀」と呼びます(「一般参賀」そのものはブルックナーの曲の後に限らず、聴衆が名演と感じたコンサートの後には行われるが、ブルックナーの名演の後には必ずある)。

こんなダサダサのブルックナーファンたちですが、心はいつも子供のように陶酔を求めて集まります。オタクの世界です。しかし、稀ですが、かなりディープにブルックナーの音楽を好きな女性(なお、この小説ではアラサー)がいたとして(絶対いないとは言えないはず)、彼女の目からブルックナーオタクたちを見るとどう見えるか。

しかも、ブルックナー団と名乗った一人は、自己流にブルックナーの伝記を書いていた。それまで、音楽は好きだけれども、作者を好きなわけではなかったブルックナーファンの女性は、彼の書く、史上最低の情けない伝記を読んで、面白がりつつも考えさせられる。

で、彼女、代々木ゆたき、と言いますが、女性ブルックナーファンとしては、ブルオタの一人に数えられることには激しく抵抗するけれども、ただやはりブルックナーファンたちのブルックナーその人を思わせるような不遇ぶりには同情もするのであった。とはいえそのダサさはやっぱりヤなのだが。

なお語り手でもあるヒロインゆたきは、図書館の非常勤職員で、現在の図書館の問題も語られる。さらにかつて翻訳家をめざしていたこともあって、翻訳に関する話もあります。たとえば、岸本佐知子さんみたいになりたかったのになあ、という挫折。
~『不機嫌な姫とブルックナー団』(について、その1)でした。

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